躰の中を侵食する様に静謐が襲う。ひたりひたりと撫ぜる空気を纏って掻き分け歩いて行く。不図、鼻腔に流れ込む馨。すぐに金木犀だと悟る。闇に寄り添い負ける事無く自己主張する小さな金色の華と香を持つ金木犀。先程まで巣食っていた静謐と入替わる様に強い芳香が躰を満たしていく。
「此の侭では溺れ沈んでしまう」
言の葉は誰の鼓膜を震わす事無く音も無く地面に落ちる。小さな小さな金木犀の花を一つ残らず摘み取って肺に容れてしまったら世界は変わるだろうか。目を瞑るとバサリと音を立てて黒く鋭い羽が闇を裂く。99%の金木犀と1%の紫煙で満たした肺とこの翼で何を狩ろう。其処行く人。咲く華。昼間の公園の笑い声。背中を丸めた大人の煙草の先っぽ。何でも狩って自分の中に取り込める。肺に詰めた金木犀は躰を侵食し内側からじわじわと自分を食い殺すだろう。構わずに狩って狩って狩って最期には強かで愛らしい金木犀に呼吸を奪われ溺れ死んでいくのだろう。海で溺れ死ぬ魚の様に自分も本来生息する場所で生きる事が出来なくて死ぬのだ。けれど妄想は飽く迄妄想で在りもしない夢を振り切る様に目を開いた。
「それでも」
纏わり憑くこの馨に溺れて沈むのも良いかもしれない。誰も欲して居ないから誰もやったことが無いから誰にも必要とされて居ないから誰も此処には居ないから。指先で馨を掴んでは離し攫んでは放しじゃれて捨てる。
戯れながらも空気を掻き分ける俺を咎める様に何処迄も誘惑する金木犀。やんわりと肩を掴んで唇をなぞり自分の方を見て貰おうと懸命に。漸く足を止めて一房の華を手に取って口付けると辺り一面に先程より強い香が一斉に立ち上った。
「でも、ごめんな」
火の灯った右手の人差し指で天を指す。燦然と輝く円。静謐と寄り添い勝ち負けも自己主張も無関心な一輪の満月。
「恋人がおんねん」
だから、ごめんなともう一度告げて先程口付けた華のほんの小さな一片を千切って口に含んだ。ゆっくりと嚥下して躰の中に収める。濃い馨が困惑した様に揺らいで薄れた。躰を満たしていた金木犀が諦める様に怖がる様に走り去って行く。同時に元の静謐が空に成った躰を埋めるべくして入り込んでくる。
ひたりひたり。
其れは濡れた冷たい手で触れられるのと似た感覚。
ひたりひたり。
沢山の静謐に躰が満たされると同時に右手の炎を地面へ落とした。きゅ、炎を消して再び空気を掻き分けて進み始める。所詮妄想は妄想でしか非ず。唇に嗤いが零れた。最大の夢は恋人に回帰し一体を成す事。しかし夢も又夢でしか非ず。瞳を閉じれば恋人への道が閉ざされる。喉の奥で嘲笑う声を聞いた気がした。
立ち去った場所では金木犀が再び馨り始めた。
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あげはワールド炸裂(*′∀`)
読みにくくて申し訳ない。
でも、もっと解りにくくしたかった…。
イメージ的にはkenちゃん。
さて。これからゴシックパーティです。
行って来ます~。ついでにデスノも見てくるよ(・ω・)ノシ