「用意できた?」
「できたできた。準備ばっちしやで」
10月3日。
我等がリーダーのお誕生日。
11月にライブがあるので、練習・打ち合わせ・諸々の為にスタジオに集まっている。
メンバーはもちろん、スタッフもみんなみんな。
そして、今日の主役はというと。
ブースの中で難しい顔して譜面とにらめっこの最中。
「まだやってんのかなぁ」
「ずっと同じトコやってんのとちゃうん?」
「そうそう「できーんっ!!」ってさっき吼えとったで」
「まぁ、ずっといてくれた方がたすかるんだけどな」
上から順に、ユキヒロ・ハイド・ケン。たまたま遊びに来ていた(という設定の)サクラ。
四人で額をつき合わせてコソコソ話。
もちろん、テツからは見えないように、死角に隠れている。
「録音…は大丈夫だよね」
「今、調整してもらってる最中やけど、大丈夫やろ」
唇に煙草を挟んだまま、ケンが言った。
「用意できました。いつでもいいですよ」
タイミング良くエンジニアが言いに来た。
今回は、此処に居るテツ以外の全員が仕掛け人。
「お疲れ様~。ありがとう。これで準備ばっちしやな」
ケンがししし…と笑った。
小さい子供が悪戯するときの笑顔みたいや。と、ハイドも笑った。
誰かがこれから幸せに、笑顔になれると思うと、それだけで口元が緩んでしまうのは不思議だ。
みんな、楽しそうに笑ってる。
先程ケンを子供みたいだと笑ったハイドも子供のように笑ってる。
「じゃー、みんなの準備はOK?」
ケンが周りを見渡すと、全員の笑顔の頷き。
それを見たハイドは満足げに笑って、レコーディング卓のスイッチを押した。
「てっちゃん、てっちゃん。聞こえる?」
おっとりとしたハイドの言葉。
ブースの中でテツが顔をあげる。
眉間に刻まれた皺が不機嫌を視覚化していた。
が、構わずに言葉を続けるのはハイドにしか出来ない芸当だ。
「キューボックスのヘッドフォン、そこにあるやろ?ちょっとつけてみぃ?」
向こう側の声は全く聞こえない。
眉間に皺がよったままだから、不機嫌なのには間違いないだろう。
それでも、テツはヘッドフォンを頭に付けた。
「ありがとう。じゃあ、三番のフェーダーあげててくれれる?」
テツは小さく何かを呟いていたようだが、ハイドの言葉に素直に従っていた。
「さすがハイドくん」
ユキヒロが小さく笑った。
不機嫌なテツにここまで言う事を聞かせることが出来るのは、多分ハイドだけだ。
「ありがとう。ちょっと待っててな?」
これまたおっとりとした謝礼の言葉を最後に、ハイドはスイッチから手を離した。
ブースの中には、わけのわからないまま取り残されたテツが一人。
こちらの動向を気にする仕草。
「テツ、自分の誕生日忘れてねぇか?」
サクラが笑う。
「ここのところ、ずっとスタジオ通いやからねぇ。忘れてるわな、アレは」
そばに居たケンが苦笑。
ちょっとくらい、休んでもいいのに。とケンは良く思っているのを皆知っている。
「再生ボタン、おすよ?」
ユキヒロの指がPCのマウスにかかっていた。
「オッケ~」
ケンのふにゃりとした声が合図。
「あーい」
カチリと微かな音を立ててPC画面が変わっていく。
同時に、コントロールルームに音が流れ始めた。
『ハッピバースデートゥーユー♪』
重複した沢山の声でのハッピーバースディ。
テツのヘッドフォンからも同じものが聴こえている筈だ。
その証拠に、肩がピクッと動いたのがわかった。
「おぉ。目ぇまんまるやん~」
悪戯成功。
ケンとサクラが豪快に笑った。
「見ろよ、あの顔」
「まぬけ~」
ヒィヒィいいながら笑う2人を横目にユキヒロは満足げに笑っていた。
「ハイドくん発案、テツ君おめでとうパーティー。だいせいこうじゃん」
「良い案やったやろ?してやったりって感じ」
「だろーね」
今にも鼻歌を歌い出しそうなハイドは、目をつぶってスピーカーから流れる音に合わせて頭を揺らしている。
楽器も何もなしの声だけのハッピーバースディソング。
沢山の声が歌う。
その声に同じものは一つも無くて、どれだけの量が重なっているのかわからない。
『ハッピバースディ、ディア…』
その後は普通ならば名前が来るのだろうが、聴き取れなかった。
人それぞれが普段のテツの呼び方で歌っているのだ。
「テツ」やら「テツさん」やら「てっちゃん」やら、沢山。
ゴチャゴチャして聞き取れるわけが無い。
それだけ大勢の人たちが参加してくれたのだ。
『ハッピバースディ、トゥーユー♪』
歌い終わって微かなノイズ音が鳴り、やがて無音になった。
「だーいせーこーvv」
静まり返ったスタジオにマイペースなハイドの声が響いた。
各所でクスクスと忍び笑いが起こる。
「さて。今日の主役を迎えにいきますか」
サクラが立ち上がり、ブースへ向かおうとする。
「俺も!」
ケンも後に続いた。
ユキヒロは無言でケンの後に続く。
ハイドは最後にゆっくりと立ち上がり、みんなより少し離れてついていった。
「テツ、おめでとう~」
先行2人組みが固まってしまったテツを取り囲んだ。
最後のハイドが入ってくると、狭いブースの人口密度はかなり高くなった。
それでもパチパチと瞬きを繰り返すテツ。
ユキヒロはそんなテツの前に立つと、ぺチリと頬を軽く叩いた。
「いいかげんにおきろって。なんか、言うことあんでしょー?」
テツは漸く我に返ったようだった。
「あ、ありがとう!」
少しだけ声を上擦らせた言葉に、4人とも笑った。
「どういたしましてぇ」
ケンがわしゃわしゃとテツの頭を撫でる。
「てっちゃんかわええ~」
ぐしゃぐしゃになったテツの頭をさして、ハイドが爆笑した。
「なっ…!ハイドうるさい!」
こころなしか、赤い顔でテツが反撃した。
「怒っちゃいやんvv」
ひらりとハイドはかわしてテツの手を引っ張った。
「みんな待ってんで」
そう言って、ガラス越しのコントロールルームを指差した。
そこにあったものは、沢山の笑顔。
「ホラ。行くぜ」
有無を言わせない優しい力で、サクラがテツの腕を引っ張りあげた。
これから始まるのは、楽しい宴。
大切な人に「生まれてきてくれてありがとう」というお祭り。
嬉し過ぎて、テツの目が少し潤んでいた事はテツだけが知っていること。
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生まれてきてくれて、本当にありがとうございます。
文章に関しては、言い訳しません。
明日辺りにします。きっと(笑)
用語解説。
コントロールルーム:レコーディングとかで大きい機械が置いてあるところ。PCとかも置いてあるね。SMILEのDVDを参照していただければ…。
卓:↑の機械。レコーディングって言って多分一番最初に思い浮かべる機械。
ブース:アーティストが演奏するところ。
キューボックス:コントロールルームで聴いてる音をアーティストが聴く事が出来る機械。今回の話のようにして使う事は無いと思われます(笑)
